憂きまど

タイトルは「憂き事のまどろむ程は忘られて覚むれば夢の心地こそすれ」より。某大学国文学修士だった人が趣味丸出しでおくる、アニメや小説の感想を中心になんでも。超気まぐれ更新。読んだ本はこちら→https://bookmeter.com/users/337037 Twitterは→@konamijin

『劇場版 のんのんびより ばけーしょん』と舞台挨拶をみてみた ※ネタバレを含む

 そうだね、タイトルの通りだね。あにてれでの特番では「脱力系田舎ライフコメディ」と紹介されていた『のんのんびより』。宮内れんげ、一条蛍、越谷小鞠、越谷夏海ら四人を中心に展開する、田舎での生活を描いた作品である。一期、二期、OADなどを経て再びアニメ化となった。キャスト陣も全員集合は約二年半ぶりだったという。

 私はアニメ一期の放送当時から視聴し、原作も読んでいる。私自身、福島県の田舎育ちである。さすがに小学生から中学生まで全員が同じ教室で授業を受けるというようなレベルの田舎ではないが、田んぼや畑が多く畜産をやっている家も多くある。現在は高齢化と後継者不足で畜産はやめる、田畑は自分たちが食べる分だけの米・野菜を作るだけにして規模を縮小する、というところも増えている。80歳を超えてくると、農家の皆さんも体がついていかないものだ。リアルの田舎は世知辛い。れんげが沖縄で牛を見て「ここも田舎なのん?」とつぶやく場面がある。牛がいる=田舎という固定観念ができているのだろうが、この認識はあまり間違ってはいない気がする。

 さて、今回の劇場版は沖縄編である。原作では7巻にあたる。いつかOADでアニメ化されるのだろうか、と多くのファンが思っていたエピソードだが、まさかの劇場版。デパートの福引で、特賞の三泊四日の沖縄旅行を引き当てた一同が、そろって沖縄へ行くというものだ。沖縄というと、本土の人間には物産展や沖縄料理店などが、沖縄の文化を知る機会になるだろうか。私も子供の頃は百貨店で催される沖縄物産展によく行ったりしたものだ。昨年は沖縄料理店に行く機会があったが、やはり料理はおいしい。また泡盛を飲みたいものである。

 シネマサンシャイン池袋での上映前舞台挨拶から。この劇場に入るのは、昨年末にあった「宇宙よりも遠い場所」の選考上映会以来であった。私が行ったのは一番最後の回である。メインキャスト四人(小岩井ことり村川梨衣佐倉綾音阿澄佳奈)が勢ぞろいする。本人確認と手荷物検査を一人ひとりきっちり実施。本人確認はまだしも手荷物検査までやるのは珍しい。特典の色紙は一穂、駄菓子屋の大人コンビ。

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 そして始まった舞台挨拶。司会のKADOKAWAの女性、挨拶はもちろん「にゃんぱすー!」である。この作品を象徴する挨拶であるが、原作やアニメで毎回の決め台詞のように使われているというわけではなく、使用された回数は思いのほか多くはない。

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 そしてキャスト陣が登場。小岩井ことりさん、四人の中で一番背が高いが、れんげを意識したと思われるツインテールが膝のあたりまである。作中のれんげよりも長いと思った。さっそく沖縄の話などを始めようとする面々だが、佐倉さんの「自己紹介とかしなくていいの?」というごもっともな指摘により、みんな誰が誰かは知っているとはいえ挨拶が始まる。

 小岩井さんから「にゃんぱすー!」と挨拶。客席も「にゃんぱすー!」と返す。問題はここからである。続く村川さん、自分が「にゃんぱすー!」と言ったら一階席、続けて二階席が「にゃんぱすー」と順番に、しかも合唱のように音程を変えてやるという提案。即席にゃんぱす合唱団完成。続く佐倉さん。前の村川さんの独特なやり方を受けてどうしようか考える。「私が越谷~?と言ったら答えてください。髪の赤い子です!妹だけどお姉ちゃんっぽい方です。それから私が佐倉~?って言ったらまた答えてください。声優とキャラと両方知ってないと難しい…」という面白い提案。そして…

佐倉「越谷~?」

観客「夏海ー!」

佐倉「役の佐倉~?」

観客「綾音ー!」

佐倉「です!」

 …というやり取りが完成。まさか綾音コールまでやるとは思わず。その直後に「越谷夏海役の佐倉綾音です」と普通に自己紹介したため、「結局自分で言うんかい」というツッコミが入る。最後は阿澄さん。今日一番の大きな声でにゃんぱすー!を言ってもらうことを提案。いざやってみると、本当に今日一番だったようで、キャスト陣も感心していた(※これ以前に、午前中は新宿でも舞台挨拶を行っている)。

 上映前舞台挨拶ということで、本編のネタバレは当然NGだ。ネタバレをしないよう、沖縄料理の話や角川シネマの展示を見たという話、シーサーを作ったあにてれでの特番の話などを進める。観客に挙手をさせてみたところ、どうやらこの劇場版でのんのんびよりを初めて観るという人もいるようだった。「劇場の案内とかで知って観てみようと思うのかな」などと不思議そうに話すキャスト陣だったが、舞台挨拶なので登壇する声優のうちの誰かのファンだから来たという人もいただろうと思う。

 佐倉さんは特番でも食べていたソーキそばがお気に入りのようである。沖縄そばとソーキそばの違いが云々という話に関心があったようだ。他に、サーターアンダギーは口に出して言いたいという話など。

 角川シネマには等身大のキャラのフィギュアがあるようで、体形が大人びている蛍は、中の人の村川さんよりも背が高いそうである。佐倉さんが「小鞠はこのくらいだった」と地面に接するくらいの辺りに手をあてて表現したため笑いが起こる。

 特番についての話では、再び阿澄さんが手間取って小岩井さんに手伝ってもらっていたという話がネタにされる。「この人手伝ってもらってた」と言う佐倉さんに対して「この人言うな!先輩だぞ!」と応じる阿澄さん。微笑ましい。

 続いて、ネタバレをしないように、これから観る人のために各自が見どころなどを説明することに。唐突な挙手制となり、小岩井さんが手を挙げる。その後も三人が手を挙げ、司会が佐倉、阿澄の順で指名。そのたびに村川さんに対してドヤ顔をする佐倉さん。佐倉・村川コンビはのんのんびよりのラジオをやっていた仲でもあり、いつも掛け合いが面白い。

 「アニメの方でもそうだったが、脚本が最初にメッセージを出して最後にそれを回収してくれる」「某所でのんのんびよりらしからぬ音楽が流れる」「小鞠のお姉ちゃんらしいところも見れる」「スタッフ渾身のロケハンによる、沖縄に行ったことがある人は見たことがあるかもしれない景色が素晴らしい」という話など。村川さんはニコ生の特番の頃からずっとスタッフのロケハンの件をいじっている。ドローンを使って撮影もしたそうである。佐倉さんも便乗。沖縄で上映劇場を設け、彼女たちを沖縄へ連れて行ってあげて欲しい。

 そして最後に一人ずつ挨拶。個人的に印象に残ったのは佐倉さんと村川さん。佐倉さんは「観終わったら世界が優しく見える」と言っていて、きっと自分も観終わったらそうなるだろうなと思った。そして村川さん。「(景色が美しくて)自我を忘れて没入する」という話をしたかったのだが、説明不足だったため佐倉さんが「ええと俺がお前でお前が俺で…」という感じにいじる。その後客席にもしっかりと伝わったようだが、彼女の言っていたことは間違っていなかった。本編を見て、それがよく分かった。

 こうして舞台挨拶は終了。舞台を降りるキャスト陣だが、村川さんのマイクが汽笛のように鳴るというプチアクシデント。キャストの誰かが「開始の号令」と言ったようだった。

 いよいよ本編の上映。個人的に印象に残った点をいくつか。ネタバレを含むのでご注意。

 

①OPとその入り方

 田舎の美しい風景からスタートし、れんげが家から集合場所に向かう。先に着いたが、まだ誰も来ていない。そこからすぐ、遅れて夏海、小鞠、蛍の三人がやって来る。そしてれんげの彼女たちのへの「にゃんぱすー!」という挨拶からのOPへ。出ましたにゃんぱす。どこかでやるだろうと思ってはいたがこのOPの入り方はまさに開幕にふさわしい。主題歌は一期、二期とOPを担当したnano.RIPEが今回も歌唱。『あおのらくがき』のサビには「スケッチブック一面に描き始めたストーリー」という歌詞がある。今回はれんげがスケッチブックに沖縄の風景を描いて自分の田舎の風景に見せる、逆に自分が住んでいる田舎の風景を描いたものを沖縄の風景や人に見せるという行動にでる。重要なアイテムだ。風景に絵を見せてあげるという行為は子供らしい発想と解釈するか、れんげのいつもの独特のセンスというべきか。れんげがクレヨンで描く絵は小学一年生にしては実にうまい。

 

②ギャグと間

 デパートへ向かった一同のうち、いつもの無口なお兄ちゃんが福引で特賞の三泊四日の沖縄旅行を引き当てたことで、物語は大きく動き出す。その前にれんげが「にゃんぱすぱすー!」と謎の進化系の挨拶を放った後、ハズレのティッシュを貰って大喜びする場面があるが、ティッシュでここまで喜ぶ小学生はそうはいないに違いない。そのテンションからのお兄ちゃんがあっさりと引いてしまうという流れ、この緩急が面白い。その後に間があるのも絶妙だ。この「間」であるが、時にはギャグを際立たせるため、時には美しい風景をじっくり見せるために使われている。他にも、徹底して扱いが酷いひかげが完全なギャグ要員となっている。最初の土下座や毎晩床で寝かされることに対する反応などは笑えた。

 

③田舎と沖縄の風景と音

 スタッフ渾身のロケハンだけあって、気合いが入っている。沖縄の住居の屋根瓦などもよく描かれているように思う。そして川、その中を泳ぐ魚。夕焼けに映える海。水の描写が特に美しい。音に関しては、滝の音が特に臨場感を感じさせた。これが村川さんの言っていた没入、自我を忘れることかと思ったものだ。実にリアルだった。リアルさという点では、皆で夜光虫を見に行く道すがら、小鞠が虫の羽音に驚くシーンがある。この音もリアルだった。夜の虫の音などもあるが、現実世界の田舎ではうるさいくらいに鳴いているのだろうがのんのんびよりの世界では風流だ。

 また、序盤に沖縄民謡的な要素を取り入れた音楽もあった。他に、兄ちゃんが特賞を当てて戻ってくる際の音楽は見る作品を間違えたかな?と思わせるものがある。

 

④夏海とあおいのひと夏の…

 これが今回の肝である。夏海が実質主人公と言っても過言ではない。沖縄で民宿「にいざと」に宿泊することになる一同だが、そこで看板娘である新里あおいと出会う。CVは沖縄県出身である下地紫野さん。れんげたちもよく外で遊んでいると思うが、彼女はそれよりも肌がやや日焼けしている。沖縄弁、少し独特のイントネーションで話す。お客様には敬語を使い、熱心に家族経営の民宿の手伝いをしている女の子。夏海と同い年だという。そのため「夏海とは大違いだね」と小鞠に言われ、なんとなくバツが悪そうな夏海。最初の顔合わせでも同年代の女の子に会うのは初めてだったから、敬語をつい使ってしまうなどぎこちない。

 しかし、夏海は彼女が夜にバドミントンの壁打ちを一人でやっているのに遭遇する。母親から壁が傷つくからと壁打ち練習を禁じられているあおい(実際、彼女が練習をしていた壁はその跡が残っている)は、バレてはまずいと夏海にラケットを隠させる。どうにか母親の追及を切り抜ける二人。思わず敬語を使わずに話してしまったあおいと、普段はそんな話し方なんだねと言う夏海。そこから二人の距離は縮まっていく。彼女と遊びたい夏海だが、やはり民宿の手伝いでなかなか手が離せない。そんな様子を見ていた小鞠、翌朝、部屋の掃除などあおいの仕事を自分たちでやることを提案し、実行する。こういうところが阿澄さんの言っていた「お姉ちゃんらしさ」だろうか。妹である夏海の気持ちを思いやっての提案だった。こうして町を案内してもらうことになる。小鞠に対してバドミントンで無双していた夏海も、バドミントン部のあおいに対しては完敗。こうして二人の仲はより一層深まった。住んでいる環境の問題から、同い年の友人がいない夏海。ある意味初めての経験だったのだろうか。

 しかし、別れが訪れる。涙を流す夏海。最後もあおいと言葉を交わさずに帰りの車に乗り込みそうになるが、れんげと目を合わせることで向き直る。帰ったら自分の学校の写真を送ること、またバドミントンをしようということを約束する。別れ際に握手などするのかと思えばそんなことはなく、私にとってはそれが少し意外だった。そうするとまた別れが辛くなるということか。

 そしていつもの村のバス停へ。村の名前は決まっておらず、KADOKAWAの人も「通称のんのん村」と呼んでいる。れんげからスケッチブックに描いた絵を渡された夏海。お礼を言う。この時点ではまだ何の絵なのか観客には分からない。

  帰宅後。夏海はれんげの絵を自室の壁に貼る。バドミントンのラケットを持ち笑う夏海とあおいの絵。エモい。エモすぎる。夏海はお調子者のムードメーカーだが、この旅で少しだけ違った一面が見えたと思う。この作品を観た後で改めてキャラの人気投票をやれば、きっと夏海は今度こそ4位以内に入れる。

 夏海とあおいは、もし仮に男女であれば確実に「ひと夏の恋」として描かれただろうと思う。別れ際か、前日の夕暮れに海辺で二人きりで会ったり。それでも思いを胸に秘めて別れるか、ちょっと踏み込んでみるかはそういった創作物の描き手に委ねられるだろう。

 しかし、のんのんびよりはこれを同い年の女の子同士の友情として描いた。もちろん百合的な意味でもない。後で夏海は言ったとおりに写真を送るなどし、文通をしたりするのだろうか。あおいと皆は、単なる従業員と客という関係で終わらなかった。これは夏海がたまたまバドミントンの壁打ちをするあおいの姿を見たからというのが大きい。夏海はあおいと比較されていた。普通であれば面白くないだろう。しかし、しっかり者だという印象を持っていたあおいの意外な一面=自分と少し共通する面を知れたことで、夏海は親近感を覚えたのである。共に明るく元気な性格だというのもよかった。お互いのことを話したり、遊んだりすればすぐに「友達」だ。一緒に長く時間を過ごすことは、お互いをより深く知るためには必要だが。でも、まず友達になることに時間は関係ない。いつか、再会の日が来ることを願いたい。

 

のんのんびよりファンには嬉しい「いつもの」

 「具」が少し出てきたり、蛍が実は甘えん坊であるという設定や、小鞠が大人ぶってはいるが実は怖がりでお子様、無口のイケメン兄ちゃんなど、これまでのんのんびよりを見てきた視聴者であれば安心感と懐かしさを覚えるような描写が散りばめられている。個人的には大人組、駄菓子屋がれんげの保護者のようになっている点、一穂が普段はどこか抜けている雰囲気だが実はしっかり大人としての役割を果たしているという点が印象に残った。

 そして、「いつもの」と言えばED後の「今回はここまで」。よくやってくれたと思う。これでこそのんのんびより。「今回はここまで」ということはまたいつか続編が…?OADでも原作ストックがたまったら三期でもいいよ、と思わせるものがあった。

 

おわりに

 総評として、今回の劇場版はとてもよかった。久しぶりにのんのんびよりの世界に浸ることができた。私はこの作品を見ると心が洗われるのである。まさに佐倉さんの言う「世界が優しく見える」気持ちになるのだ。劇場版のラストでは、れんげが帰宅し、家の匂いをかいで自分は帰ってきたんだ、と実感する。「ただいまなのん」と言う。「ここは世界一優しい おかえりが待ってる場所」であり、「大好きなふるさと」である。でも、沖縄も楽しい思い出がたくさんできた、またいつか行きたい場所でもある。きっとその時には、れんげは今度こそイルカの絵を描くだろう。上映終了後には、どこからともなく拍手が起こった。とてもあたたかかった。もう一度、舞台挨拶と合わせて観る機会がある。何か違った発見があったりするだろうか。